大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

和歌山地方裁判所田辺支部 昭和32年(む)41号 判決

申立人 新田祐次郎

★ 決定

(申立人・代理人氏名略)

右申立人代理人より刑事訴訟法第五百二条に基く異議の申立があつたので当裁判所は次の通り決定する。

主文

本件申立はこれを却下する。

理由

申立人代理人の申立要旨は申立人に対し昭和二十七年政令第百十八号減刑令第一条但書に該当する者として検察庁が減刑不適格と認定して居られたのであるが、この認定の理由として当時減刑の通知書送達の当時本人は逃走して所在不明の為め減刑書に該当しないと言うのである。しかもこの事実が最近に至つて異議本人に於て判明したのである。しかし(一)本人は当時所在不明ではなかつた。(二)本人又は実父母に本人宛の減刑通知が送達され又は送達されんとした形跡はない。(三)当時本人の観察保護司が該通知書を本人宅に持参していない。しかるに通知書伝達の復命書が「所在不明」云々となつて居るのは奇怪である。茲に異議の申立を為すゆえんは減刑を受けるか否かによつて現に係属中の事件に重大なる影響を与えるものであるからである。ちなみに本人が減刑云々の対象となつた過去の事案は和歌山地方裁判所田辺支部に於て昭和二十四年七月二十九日窃盗罪により懲役二年以上四年(少年犯)以下の判決を受け同年八月十三日確定し奈良少年刑務所に服役したが、昭和二十六年八月二十三日仮出獄したのである。即ち仮出獄期間は同年同日より同二十八年七月二十八日に至つて居る。しかるに本人は悪友小峰守に唆かされ五年前同人の窃盗を幇助したかどにより目下新宮支部に於て窃盗の共犯として公判進行中である。其後本人は妻帯して以来、家庭と環境の不良によりわい曲せられたる素行はこれを一擲し飜然良識に復帰し日夜生業を励み、青年団の役員に推されてこれに就任し模範青年として五ヶ年間附近の隣人は素より青年層の称賛を博するに至れる現状である。されば全く更生したる本人を係属中の犯罪により獄窓にら致する事は全く将来ある更生青年を殺ろす事となるのであつて本人の既往の犯罪につき減刑の恩典に浴して居る事となれば必ずや現在審理中の窃盗犯に付執行猶予の寛大なる判決を受くる事は火を見るよりも明確であるので茲に減刑不適格者なる認定を解消せらるる為め刑事訴訟法第五百二条に依り異議を申立てた次第でありますというにある。

しかし刑事訴訟法第五百二条に基く異議の申立は裁判の執行を受ける者又はその法定代理人若しくは保佐人に限つてなし得るのであつて委任に基く代理人がなし得ないのみでなく、刑の執行終了後は申立が出来ないのである。しかも同条にいう裁判の執行に関する検事の処分とは検事が刑事訴訟法の規定に基いてなす裁判の執行に関する処分を指称するものであることはいうまでもないところである。ところが恩赦は行政権の発動によつて刑の判決の効果を動かし刑の全部又は一部又は刑の効果を免除するもの、即ち刑事訴訟法上の成規の手続によらないで犯罪者に対し国家の刑罰権の全部又は一部を放棄する行為であつて、その手続は行政機関が行政行為としてなされるものであり、刑事訴訟法に基いてなされる手続ではない。従つて所論の如く申立人に対する恩赦不該当の認定が検事においてなされたとしても、それは検事が刑事訴訟法に従つてなす裁判の執行に関する処分とはいえないのである。それ故それに対しては行政事件訴訟特例法による救済を求めるのは格別刑事訴訟法第五百二条の異議によつてこれが是正を求めようとすることは不適法といわねばならない。以上の理由により爾余の点につき判断するまでもなく本件申立の不当なことは明かであるから主文のとおり却下した次第である。

(判事 依田六郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例